『蝶々夫人』

『蝶々夫人』の公演に向けて行われたインタビュー
 
問) これまで数多くの「蝶々さん」が演じられてきたわけですが、さすらいさんにとっての「蝶々さん」とは、どのような女性でしょうか。

さすらい) 誤解を恐れず端的に申し上げるならば、精神を病んだ人と言えるでしょう。実は、これは指揮者で、かつ精神医学の博士号を持つジュゼッペ・シノーポリさんの受け売りなんですが、蝶々さんのあまりに激しい精神の高ぶりと、その劇的な変化にリアリティを持たせるためには、とても有効な解釈だと思います。加えて申し上げるなら、それ故にこそ蝶々さんも『蝶々夫人』というオペラも、こんなにも魅力的なんだと言えると思います。

問) ○○音楽ホールでの公演は、通常のホールと違い、非常に限られた条件の中での演出を余儀なくされると思いますが、その場合、どのようなところに気を使われますか。

さすらい)オーケストラと歌い手、指揮者の位置関係が大きな問題になることは皆さんよくお分かりだと思いますが、僕はそれ以上に照明に気を使います。通常、僕の演出では照明がとても大きな役割を果たすのですが、今回は非常に厳しい条件下での仕事になりそうです。スタッフの皆さんと知恵を出し合って最善を尽くしたいと思います。
問) 最後に、多くの地方オペラ団体とも関わりの深いさすらいさんから、これからの○○市民オペラがより一層発展していくためのアドバイスをお願いします。

さすらい)日本におけるクラシック音楽は、まさに『蝶々夫人』の時代、明治時代に、学問としてあるいは政治の道具として導入されたという経緯から、その本来の力が見失われがちです。人は、その心の震えを歌にのせて、音楽を通して、人から人へと伝えることが出来ます。そして、そこには明日を生きる力が生まれて来ます。オペラが本来持っている力を再認識して、勇気、希望、明日を生きる力を、そこから汲むことが出来れば、オペラを囲む人の輪は、さらに大きく豊かなものになるはずです。お祭りに参加して、神輿を担いだり炊き出しをしたりと言うような感覚で、一人でも多くの方が楽しんでオペラに係わって下さればと思います。